作成: 2026-06-18 | カテゴリ: electronics(電子回路)
Vout = Vin / (1 − D)(D = スイッチ ON のデューティ比)で決まり、3.7V → 5V には D ≈ 0.26 を要する。実用上は MT3608 などの既製モジュールを使うのが現実的。
VL = L · (di/dt)。本ノートでは「コイルが電流を流し続けようとして生む電圧」という物理直感で扱う。倍電圧整流回路は、本来交流(AC)入力を前提とした回路である。ダイオードとコンデンサで「AC の正の半サイクルでコンデンサを充電し、負の半サイクルで別のコンデンサに積み増す」ことで入力 AC のピーク電圧の約 2 倍を得る。つまり入力電圧が時間的に振動している(極性が反転する)ことがエネルギーを汲み上げる原動力になっている。一方、リチウム電池の出力は一定の直流(DC)であり、整流(ダイオードで一方向に通すこと)をしても電圧の大きさは変わらない(むしろダイオードの順方向電圧降下で少し下がる)。振動していない DC をダイオードとコンデンサに通しても、コンデンサは入力電圧まで充電されて止まるだけで、それ以上の電圧は決して生まれない。 🟢 したがって DC を昇圧するには、(a) 一度 DC を高速にスイッチングして疑似的な「変化する電流」を作り出し、(b) その変化からコイルやコンデンサにエネルギーをポンプアップする能動回路が必要になる。本ノートで採用するコイル方式(ブーストコンバータ)はまさにこれで、スイッチング素子で DC を断続させ、コイルの磁気エネルギーを介して昇圧する。(コンデンサだけで昇圧する DC チャージポンプも存在するが、整数倍に限られ電流容量が小さい。詳細は最後の対比表を参照。)
部品は 5 つだけ。入力 Vin・コイル L・スイッチ(MOSFET)・ダイオード D・出力コンデンサ C、そして負荷。並び順が重要で、コイルは必ず入力側に直列、スイッチは L とダイオードの間からグランドへ落ちる位置に入る。
動作のカギは ノード A の電圧がスイッチの ON/OFF で激しく上下する点にある。次の 2 フェーズで見る。
SW を ON にすると、ノード A がほぼグランド(0V)に短絡される。すると Vin の全電圧がコイル L の両端にかかり、コイルには di/dt = Vin / L の割合で電流が増え続ける。この間、コイルは流れる電流に比例した磁気エネルギー E = ½ L I² を溜め込む。ダイオード D はこのとき逆バイアス(出力 B のほうが A より高電位)になるので OFF となり、負荷へは出力コンデンサ C に溜まった電荷だけが供給される。🟢
SW を OFF にした瞬間、コイルは「いま流れている電流を急に止められたくない」ため、電流を流し続けようとして逆起電力を発生させる。コイルの A 側の電位は、電流を維持する向きに跳ね上がる。結果としてノード A の電圧は Vin + VL まで上昇し、これが Vin より高くなる。A の電圧が出力 B(≈ Vout)を超えるとダイオード D が順バイアスで ON になり、コイルの電流が D を通って出力コンデンサ C を充電し、負荷にも電流を送る。コイルに溜まっていた磁気エネルギーが、Vin に積み増しされた形で出力側へ放出されるため Vout > Vin が成り立つ。🟢
CCM(連続導通モード)では、定常状態でコイルにかかる電圧の 1 周期平均はゼロになる(コイルが磁気を溜め込み続けることはない=ボルト秒バランス)。ON 相でコイルにかかる電圧は Vin、OFF 相では Vin − Vout(負の値)。これが釣り合う条件から昇圧比が導ける。🟢
整理すると、ブーストコンバータの基本式が得られる。
D は 0〜1 なので 1 − D は必ず 1 以下、よって Vout は常に Vin 以上(=昇圧)になる。D を大きくするほど昇圧比が上がる。今回の目標値を代入して必要なデューティ比 D を逆算する。
つまりスイッチを 1 周期の約 26% だけ ON にすればよい。🟢 実際にはダイオードの順方向電圧降下(ショットキーで約 0.3〜0.4V)やコイル・スイッチの抵抗損失があるため、目標 5V を出すには D を少し大きめ(実効で 0.3 前後)に取ることになる。下表は理論値の早見。
| 必要 Vout | 1 − D = Vin/Vout | デューティ比 D(Vin = 3.7V) |
|---|---|---|
| 3.7V(昇圧なし) | 1.00 | 0.00 |
| 5.0V(本目標) | 0.74 | 0.26 |
| 9.0V | 0.41 | 0.59 |
| 12.0V | 0.31 | 0.69 |
🟡 D を 0.8 以上に上げれば原理上はさらに高い電圧も出せるが、コイルに溜める電流のピークが急増し、効率が落ち発熱・素子破壊のリスクが高まるため、実用では昇圧比 4〜5 倍程度までが目安。
個別部品(MOSFET・ゲートドライバ・ダイオード・コイル・帰還抵抗)から自作することもできるが、スイッチング周波数の設計・帰還ループの安定化・ノイズ対策が必要で難易度が高い。実務では昇圧コンバータ IC を載せた既製モジュールを使うのが現実的。代表例が MT3608(基板状の小型昇圧モジュールとして安価に流通)。半固定抵抗で出力電圧を設定し、入力に電池、出力に負荷をつなぐだけで動く。🟡
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 電流容量 | 昇圧では Iin ≈ Iout · Vout/Vin / 効率 となり、入力電流は出力電流より大きくなる。5V/1A を出すには入力側で 1.5A 前後流れる。モジュールとコイルの定格電流、電池の放電能力(C レート)を超えないこと。 |
| 変換効率 / 発熱 | 効率は概ね 85〜92%。残りは IC・コイル・ダイオードで熱になる。出力電流が大きいほど発熱するので放熱・電流マージンを確保。安物モジュールは公称の半分程度で扱うのが安全。 |
| 出力リップル | スイッチングに伴う電圧の脈動。出力コンデンサ C の容量・ESR と負荷で決まる。USB 機器駆動なら十分小さいが、アナログ用途では LDO を後段に足すこともある。 |
| コイル選定 | 飽和電流(定格を超えると急にインダクタンスが落ちる)が動作ピーク電流を上回るものを選ぶ。直流抵抗 DCR が小さいほど効率が良い。 |
| ダイオード選定 | 順方向電圧降下が小さく、逆回復が速いショットキーダイオードが定番。電圧降下が小さいほど効率が上がる。(モジュールに最初から実装済み。) |
| 電池の下限電圧 | リチウム電池は放電すると 3.0V 付近まで下がる。Vin が下がっても D を上げれば 5V を維持できるが、入力電流が増える。過放電保護(保護回路 / カットオフ)も検討する。 |
| 観点 | コイル方式(ブーストコンバータ) | コンデンサ方式(チャージポンプ / 倍電圧整流) |
|---|---|---|
| エネルギー貯蔵 | コイルの磁気エネルギー(½ L I²) | コンデンサの電荷(½ C V²) |
| 昇圧比 | 連続可変(D で自由に設定。Vout = Vin/(1−D)) | 原則整数倍(2 倍・3 倍など段数で決まる) |
| 出力電流 | 大きく取れる(数 A まで容易) | 小さい(数十〜数百 mA 程度) |
| 効率 | 高い(85〜92%)。負荷変動に強い | 昇圧比が中途半端だと低下しやすい |
| 部品 | コイルが必須(かさばる・電磁ノイズ源) | コンデンサとスイッチのみ(小型・低ノイズ) |
| DC 入力でそのまま昇圧 | 可能(スイッチングで電流変化を自ら作る) | DC チャージポンプなら可能。ただし倍電圧「整流」回路は AC 入力前提で DC には直接使えない |
| 代表用途 | 電池 → USB 5V、LED 駆動、昇圧電源全般 | EEPROM の書き込み電圧、LCD バイアス、小電流の電圧生成 |
🟢 今回の「3.7V リチウム電池 → 5V・USB 機器駆動(数百 mA〜1A)」という要件では、十分な出力電流と高効率が必要なためコイル方式(ブーストコンバータ)が適切。チャージポンプは小電流・低ノイズが活きる用途向き。
Vout = Vin/(1−D)。3.7V → 5V には D ≈ 0.26。損失込みで実効 0.3 前後。